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懐山のおくない
1月の第1週は、そこいらじゅうで祭りがあるので、それを見物するのも忙しい。

昨年、浜松市の山間部でも「ひよんどりとおくない」が行われていることを知り、昨年は、1月1日に「滝沢のおくない」、3日に「寺野のひよんどり」、4日に「川名のひよんどり」を見に行った。

今年は、毎年1月3日に浜松市天竜区懐山の泰蔵院で行われる「懐山のおくない」を見に行った。

午後1時ごろから始まる、ということで、早めの昼食を食べてから、11時過ぎに車で家を出て、懐山に近づくと結構な山道であったが、1時間ほどで到着。

祭りの開催の幟とかは出ていなくて、あたりはひっそりとしているので、「おくない」が行われるか心配になったが、駐車スペースに何台か車が留まっていたので、車にいた人に開催を確認して、一安心。


昨年手に入れた、遠江のひよんどりとおくない連絡協議会発行の「遠江のひよんどりとおくない」を参考にしてすすめると、この「おくない」がいつ頃から始まったかは不明だが、平安末期から行われていたという言い伝えがあるそうだ。

もとは、新福寺阿弥陀堂で行われていたが、この寺は明治初年の廃仏毀釈の際に、本尊の阿弥陀如来を泰蔵院に移し、御堂も移築してしまって今はない。

元は、阿弥陀堂が地元では「五日堂」とよばれていたことで5日におこなわれていたことがわかる。

時間も今は13時か18時ごろまで行われるが、「宵の獅子」と「夜明けの獅子」の演目があることから、本来は、夕方から始まり、夜明けまでおこなわれていたことが分かる。

演目の表が掲げられていたが、実際にはその順番は入れ替わったり、はしょられたりして、演目の間の着替えなどものんびりすすみ、本来は、ゆっくり一晩かけて、和気あいあいと行われていたんだなあ、と思う。


阿弥陀様は、本堂の向かって左側に祀られていて、「おくない」はその前で行われる。


本堂の中心の仏像を納めた厨子は扉が閉じられていて、ご本尊を拝むことはできない。


「おくない」は13時から、まずは阿弥陀様の前で阿弥陀様の祭・面清め・三三九度の盃などの祭事が行われる。


そして、外へ出て、泰蔵院裏手の坂を少し登ったところにある土地の神を祀る「伽藍様」で「伽藍の祭り」が行われる。

小さな社が二つ並ぶが、伽藍様は向かって左の小さいほうで石像も祀られている。


「七十五膳」と呼ばれる御餅を備えて、ここでも、三三九度の盃が行われ、神の舞が奉納される。

 


伽藍様の祭の後、本堂へ戻り、「泰蔵院の祭り」が始まるが、まずは地元中学生が行事の伝承のためだろうか、
「三つ舞」「両剣」「宵の獅子」の三番の舞を披露する。


そして、14時半ぐらいから、本番の「泰蔵院の祭り」が始まる。

まずは、舞人一人が五方に舞う「神(順)の舞」から始まり、次に三人で同じように舞う「三つ舞」が続く。


そして、「槍の舞」「杵(槍もどき)」「両剣」と続く。

両剣では、剣を上・中・下で払う動作「シバオコシ」「中バライ」「天バライ」を五方にそれぞれ三回ずつ行い、これは、邪気を払う舞。


そして、いくつかの演目をとばして「宵の獅子」。


次に「仏の舞」。

面を付けた二人が肩を組んで、五方に横にゆっさゆっさと足踏みをするだけで、お囃子はつかない。

ビデオで流れているお囃子は、演目の合間にDVDの映像が流されて、それがそのまま続いていたので、お囃子の音が入ったもの。


次が「年男」。

奥に着座している二人は、「翁」と「松陰(まつかげ)」の面をおでこに付け、そこに「猿面」と「杵」を持つ「年男」が登場する。

年男は猿面を盃に見立てて、翁と松陰に酒を勧めるが、自分が飲むほうが多くて酔っぱらってしまう、という滑稽な出し物。


ここで鬼が登場する「鬼の舞」。

三匹の鬼はまだ新人らしく、所作の指導を受けながら舞うので、その動作はぎこちない。

鬼の持つ採り物は、赤鬼は鉞、青鬼は大槌、黒鬼は金棒を持つ。


演目の順番はまたいろいろ前後して、「いなぶら(稲むら)」「綿買い」「駒の舞」と続く。

「いなぶら」は、稲の成長を表していて、「はやせばはやすほど高くなるものよ」と歌うと太鼓の上の人が伸びていって最後は杵で天井を突いく。

「綿買い」は、綿を買い付けに来た客と売り手の問答。このやり取りは即興だそうだ。

「駒の舞」は、駒が五方に舞った後、駒の主人と伯楽が登場して、即興で問答を繰り返す。
「オロオロオロ」という馬を呼ぶ呪言は注目されているそうだ。


ここで「悪魔払い」。


終盤も近づき、17時10分ごろ「夜明けの獅子」が登場する。

この獅子を誘導する「フットリ」は、猿の面を顔の横に付けている。
獅子はフットリのまねきで左右に三回ほど回され、獅子は、その年の恵方に向かって寝る。

禰宜様は扇で獅子を打ちながら唱えごとをした後、獅子の口に剣を噛ませて、獅子の口の中に餅を入れ込む。
これは獅子を屈服させた姿を表しているそうだ。

そして獅子の口の中の餅を見物人に向けて撒く。


そして、全員参加の「田植え」。

全員が紙の笠をかぶって、広間の左右に分かれて、「ささら」を先頭に「オーーーーーーー」といいながら進んで中央で入れ替わる。

「ささら」ではやしたてるのは、「田植え」というより「取り追い」のような感じもした。

最後に、ねんねこ姿の子守が拍子木を売って「飯だあぁ」と告げて、皆が席につくと、子守も席について、背中の「ネンネー(稲霊)」に汁かけ飯を食べさせる所作をして、そのあと、我々にも汁かけ飯がふるまわれる。

汁かけ飯には、雨乞いの呪術が込められているそうだ。


使われたお面



18時ごろ、この日の演目は終了した。

畳敷きの広間でのんびりと座って見物ができて、お菓子の盆が回ってきたり、お茶やお酒もふるまわれて、ちょうどお腹もすいた最後に汁かけ飯までごちそうになり、楽しい時間を過ごすことができた。

18時も過ぎて、すっかり暗くなった道を下って、19時ごろ家に帰着した。