明けましておめでとうございます。

今年もまた無事に新年を迎えることができました。

昨年は、交通誘導のバイトが近場の現場がなくなり、静岡県の西の端の私の住んでいる浜松から東の端の御殿場まで通うことが多くなり、さすがに大変なので、またスマホのアルバイト情報で家の近くの養老院の夜警のバイトをみつけ、9月からは月に6回、そのバイトと週3回のホテルの夜間清掃のバイトでなんとかしのいでいます。

今年は家のローンが満期を迎えるので、やっと「宵越しの金が持てる」生活ができそうです。

一昨年、宿題だった「越前蟹」の念願を果たして味をしめ、昨年はこれは50年越しの宿題だった松阪の「和田金のすき焼き」を食べてきました。


大学生のころ、東京蒲田の月7000円の安アパートに下宿して、松本零士さんの描くところの「男おいどん」の四畳半生活を満喫して、品川にある大学に通っていて、蒲田駅前の本屋によく寄って本をあさっていました。

文庫本のコーナーで坂口安吾の「堕落論」が目について、すぐには買わなかったけれど何度目かに購入して読み、すっかり安吾に魅せられて文庫本のシリーズはすべて読むことになりました。

なぜ「堕落論」かというと、当時、岡林信康さんの「見る前に跳べ」というLPレコードを何度も何度も聞いていて、その中に「堕天使ロック」(オリジナルはジャックス)という曲があり、

「見る前に跳んでみようじゃないか、俺たちにできないこともできるさ、さあみんなでロカビリーを踊ろう。
ころがってゆけくずれていけ、堕ちるとこまで堕ちて行け、咲いた花がひとつになればよい」

と叫んでいて、ボブ・ディランやビートルズも「Like A RollingStone(ころがる石のように)」と歌い、何か「堕ちる」という言葉に魅せられていたんだろうと思います。

ただ、安吾さんも「続堕落論」の結論で、

「生々流転、無限なる人間の永遠の未来に対して、我々の一生などは露の命であるにすぎず、その我々が絶対不変の制度だの永遠の幸福を云々し未来に対して約束するなどチョコザイ千万なナンセンスにすぎない。無限または永遠の時間に対して、その人間の進化に対して、恐るべき冒瀆ではないか。我々のなしうることは、ただ、少しずつよくなれということで、人間の堕落の限界も、実は案外、その程度でしかあり得ない。人は無限に堕ちきれるほど堅牢な精神にめぐまれていない。何物かカラクリにたよって落下をくいとめずにいられなくなるであろう。そのカラクリをつくり、そのカラクリをくずし、そして人間はすすむ。堕落は制度の母胎であり、そのせつない人間の実相を我々はまず最もきびしく見つめることが必要なだけだ。」


結局、私も堕ちきれるほどの堅牢な精神を持っていないから、何かと折り合いをつけて、こうして生きながらえています。


で、安吾の文庫本の中に「安吾新日本地理」という紀行文の一冊があり、その冒頭の「安吾・伊勢神宮にゆく」というのがあって、

「志摩の海女も、御木本の真珠もあきらめて松阪へ牛肉を食いに行く。これ又、かねての念願である。松阪牛、和田金の牛肉と、音にきくこと久しいから、道々甚しく胸がときめくのである。」

そしてなんだかんだとイチャモンをつけて、最後には、

「教祖のゴタクセンほど神秘的ではないが、うまいことは確かである。伊東市ではロクな牛肉が手に入らぬから、たしかに松阪牛にはタンノウした。それに特別手がけて肥育した牛肉は消化がよいのかもたれなかった。牛の飲んだビールやサイダーが私の胃袋を愛撫してくれるのかも知れない。まことに伊勢は神国である。」


で、「和田金の牛肉」が二十歳のころからの念願になった次第。

旨い牛肉と三種類の地酒セットで堪能しました。


昨年観たBS1スペシャル「ただ自由がほしいー-香港デモ・若者たちの500日」で、冒頭に「港豚(ゴンジュー)」と出て、、平和ボケして政治に無関心で食べる事しか興味がない若者たちを指す言葉だそうで、そんな若者たちが自由を守るために200万人規模までのデモをして、そして権力の暴力にさらされて敗北していくさまが記録されていました。

若いころ、森進一さんや吉田拓郎さんの歌う「襟裳岬」が私のカラオケの十八番で、「わけのわからないことで悩んでいるうちに老いぼれてしまうから」という一節が好きでした。

そして、どうして社会は権力者の都合ばかりで動いていくんだろうと、わけのわからないことで悩んでいるうちに老いぼれてしまいました。

世界中で権力者たちの利権争いに巻き込まれて、ただ衣食住に足りて、自由に生きることができればいい庶民が、日々殺されています。

権力者による軍隊を使っての殺戮は犯罪にはならないんだな。

チャップリンが映画「殺人狂時代」で言っています。

「大量殺人は世界が奨励しているんです。大量殺人のための破壊兵器を製造しているんです。」
「女性を殺し、何も知らない子供を虐殺。しかも科学的に行っています。」
「大事業の歴史を見なさい。戦争、闘い、すべて事業です。」
「1人殺せば悪党で、100万人だと英雄です。」

わたしのここ数年で一番好きなTV番組で毎回録画して観ているNHKの「バタフライ・エフェクト」の「ビートルズ革命、赤の時代」で、ビートルズが英国の外貨獲得に貢献したことで勲章をもらい、同じ勲章を受けた軍人たちなどから反発をうけたことに対して、ジョン・レノンは言ったそうです。

「僕たちは人を殺さずに手に入れたよ。」

昨年観た「MINAMATA」というアメリカ映画で、日本の水俣病の実態を記録した写真家のユージン・スミスを描いています。

その中で、水俣病の元凶である大企業の「チッソ」の社長が言い放ちます。

「彼らは、PPM(百万分の一)にすぎません。社会全体の利益の前では無に等しい。」

権力者にとっての「社会全体」というのは、同じ利権の中で生きている人たちの社会、ということなんだろうと思います。


でも、昨年の年賀にも書きましたが、NHKの、「ヒューマニエンス」という番組で、「”絶滅人類”ホモ・サピエンスを映す鏡」を観て、人間の歴史は結局権力者たちの欲望、利権争いのための殺戮の記録で、そうともそれが人間なんだ、と気が付き悩みは消えました。

私は、「老豚」になりました。



昨年観た映画(私は映画は衛星放送やDVDで観るので、封切よりも早いものでも1年遅れになります。)のベスト1は、「ザ・ユナイテッド・ステイツvsビリー・ホリデー」とさせていただきます。

「奇妙な果実」という、黒人がリンチによって木に吊るされて殺害されている様を歌ったプロテストソングが公民権運動を扇動する恐れがあると、当局から警戒されて、それを歌うジャズの歌姫、ビリーホリデーが様々な迫害を受けても歌い続けたすさまじい半生を見せてくれます。

映画の最後のほうで、ラジオかなにかの番組でのインタビューで、インタビューするおばあさんが次のように問います。

「あんな歌、歌うのをやめればいいじゃない。いい子にしていれば人生はもっと楽なはずよ」

その場面では返答されなかったけど、最後に彼女は迫害してくる麻薬取締官にこう言い放ちました。

「私を屈服させるのは無理、くそったれ(字幕ではもっと汚い言葉でしたが)」。


大学生のころの友人にジャズオタクがいて、彼がビリーホリデーはすごい、と言っていたけど、私はジャズとかクラッシックとか高尚といわれる音楽は肌に合わず、この映画を観るまでは彼女の歌を聴いたことはありませんでした。

当時の私にとっての歌姫は、山崎ハコカルメン・マキとティナ・ターナーとジャニス・ジョプリンで、ティナ・ターナーは、随分前に購入したDVDの「Ike & Tina Turner Live in '71」と「Soul to Soul」で圧倒的なライブ・パーフォーマンスを観ていましたが、今回、ジャニス・ジョプリンのDVDも何かないかとネットで探してみたらヤフオクで「Rock of Wonder」と「Festival Express」がみつかり購入、素晴らしいライブ映像をみることができました。

「Rock of Wonder」は、「The Dick Cavett Show」というTV番組の3枚組のDVDで、2枚目はジャニスの出演した3回分が収録されています。ジャニスの他にも、1枚目、3枚目のDVDで当時のロックスターが出演していて、すべての回をDVD化して欲しいと思ってしまいました。

「Festival Express」は、列車を借り切ってカナダを横断しての4か所で野外コンサートが行われた時の記録映画で、なにかビートルズで開かれた1960年代の「自由を求めた時代」の終焉の修学旅行のような雰囲気でライブ映像とともに素晴らしいものです。

70歳を過ぎてこういうものをみつけると、まだ生きててよかった、と思えます。


 
「龍」にまつわる中国の歌といえば、「成(ジャッキーチェン)のデュエット曲の「明明白白我的心」。


私が中国にいたころ、小姐と一緒に歌うために2番目に覚えたカラオケ曲。

「どうして甘い蜜のような夢は簡単に覚めてしまうんだろう」

曲は甘い恋の歌だけど、何度も夢みて、何度も挫折して、このフレーズは心に沁みました。

そんな「夢」つながりで、私の大好きな曲、中村あゆみさんの「永遠のテンダネス」をお贈りします。


「夢ばかりみていた。それだけでよかった」

「幸せは時に、何かを踏みにじるものなのに」

この1年、毎日のニュースで、権力者の命令で軍人によって庶民とその子供たちが殺されている映像を見せられます。

こうした現実の中で、自分が「幸せ」と感じることに後ろめたさを感じてしまいます。


何の気兼ねもなく、「幸せです」と言える世の中になりますように。。。。

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